詩人 工藤直子の優しい世界

 

詩人 工藤直子

若い頃 三鷹に住んでいた。

井の頭自然文化園で 狭い檻の中にいる

ヒグマに出会った。

 

ヒグマは檻の中を 

カシッカシッと絶え間なく行ったり来たり。

そして ある日 檻が空っぽになっていた。

「ああ あのヒグマは死んだんだ・・・」

そして 工藤直子はこんな詩を書いた。

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「ひぐま」

 

セメントに腹をのせ

でかいひぐまは頭をかきました

東京の暑い空気をかきちらしながら

かたまりの毛をかきました

かゆいかゆいセメントがかゆい檻がかゆい

 

セメントに腹をのせ

でかいひぐまは東京の空を見上げました

 

   おれは子供がほしい

   あの灰色の雲のような

   やわらかいのがほしい

 

でかいひぐまは歩きはじめました

小さな檻の中を

故郷へむかって歩きはじめました

故郷へ

土の匂いのするところへ

カシッカシッと歩きはじめました

 

でかいひぐまはもう年でした

或る日 檻はからっぽになりました

だが足音だけはいったりきたりしていました

カシッカシッと歩きつづけていました

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東京の暑い動物園の檻の中で

一生を終えたひぐまの悲しみ。

工藤直子は ヒグマの望郷の心を思う。

 

俳句も作る工藤直子の俳号は祭々。

 「のどもとに含み笑いの青蜥蜴」

小屋の周りにもお馴染みのトカゲがいる。

この句を読み なるほどなぁと感心した。

 

雑誌で読んだ工藤直子の詩と俳句。

ヒグマもトカゲもじっと見つめた

優しい世界だ。