平良の住人アキさんが、私の淹れた砂糖入りのインスタントコーヒーをすすりながら、ECHOの煙を吹き出し、顔をくしゃくしゃにして「黒い雪が降ると春や」と言った。前の冬の終わりの事だ。
「上からぱーっと黒い雪が降ってくるんや。家の周りの雪もクローになる。そしたら春や」。黒い雪？
冬の始めから、盛りの一月、二月の中旬あたり迄に静かに細かく降る雪は軽い。コートの上に付いた雪は払うとさらさらと落ちる。
そして、３日前。「あっ、黒い雪・・・」と夫が空を見上げて言った。薄い、大きな灰色の雪が、ミルク色の太陽を背にどんどん、どんどん、ひらひら、ひらひら舞落ちてくる。周りの壁の様に積もっている雪も淡い灰色の縞模様に見える。
今日、京都市内でも雪が積もった。ここでは屋根にも50センチの雪が積もった。久しぶりに除雪車が大きな音をたてて小屋の前を走る。排気ガスや泥で汚れた雪が新しい雪におおわれた。降っている雪を見上げると灰色。
経験だけで「黒い雪が降ると春」と言うアキさんの言葉を、小屋の窓からの雪景色を見ながら「成る程ね」と納得している。
