雨が降っている。正真正銘の春雨だ。山や林の中のまだたっぷりと残っている雪の上にもやさしく降るこの雨は、「もう冬には後戻りはしないですよ」と言っている。
空気も暖かく、雪や土の上から白い靄がたちのぼる。小屋のすぐ横に小さな、小さな黄連の透明感のある白い花が咲いている。今年初めての春の花だ。
5日程前のまだ冷たい日に、私達にとっては去年の秋からの宿題に思い切って手をつけた。それはアトリエの壁の中にスズメバチが作った巣の除去だ。夏の間にセッセ、セッセとスズメバチは板の間の隙間を出たり入ったり。蜂がおとなしい冬の間に何とかしよう・・・が、2月になり、3月になり。
まだ雪に埋もれていたアトリエの、スズメバチの巣がある辺りの壁の内側を、ヒメネズミの忙しそうに動き回る音がよくしていた。ガサゴソ、ガサゴソ。蜂の出入り口あたりで蜂の半身が落ちていた。
もしかして、ヒメネズミが蜂やら、蜂の子を食べてるんじゃないか?
夫が用心深く壁板をはずすと、ボロボロのスズメバチの巣があった。巣を作る時に壁の中から何かを口にくわえて飛び出していたのは、断熱材の繊維だった。巣の大きさに断熱材を運び出し、そこに巣を作り、幼虫を育て、さあ、暖かい所で冬の間ゆっくり寝て過そうと思ったかどうか、それは知らない。
毎冬、餌探しに苦労するヒメネズミはどんなに嬉しかっただろう。雪の中を走り回る事なく、おいしい蜂の子をたらふく食べ、何故かクルミのかけらも時々テーブルの上に置いてある。
「人生、そう捨てたもんじゃないでしょう?」とヒメネズミに聞いてみたい。