山に囲まれて。夢と現実

鹿、熊から杉を守るテープ
鹿、熊から杉を守るテープ

50年程前に国の方針で山の雑木が伐られ、その後に杉の苗木が植えられた。その苗木が今や深緑の布を広げた様に山の斜面に広がり大きくなった。

平良の80代の「語り部」は「杉を植えるのは山の下5分の1だけ」と、父親に聞いたのを覚えている。

ところがどうだ。造林公社が日本中から山仕事の職人さん達を集め、ヘリコプターで杉の苗木を落とし、無差別ともいえる程山に杉を植えていった。山主さん達も60年後の成長と、それを伐り出しお金に変わるのを楽しみに山を眺めていた事だろう。

杉の切り口
杉の切り口

成長した人工林の杉達は、50年後、まさかこんなに嫌われるとは思いもしなかっただろう。

仲良く共存していた山の動物達の食料を奪い、人間は花粉症で大騒ぎだ。保水力の弱い杉は山の斜面をしっかりと固めない。そして,一年中緑の葉を茂らせ陽をさえぎる林は、陰鬱な顔をしている。

外材の方が安いと言われて、成長した杉はそのまま放置されている。時たま行われる間伐の仕事。そこで倒された間伐材も有効利用されるは事ない。運び出す運送費の方が高くつくからである。

 

しかし、最近はその間伐材を満載したトラックを時々見かける様になった。

 

一人で楽々山仕事
一人で楽々山仕事

小屋の裏を流れる針畑川沿いにいくつかある神社は、筏師の安全を祈願する為に建てられた。村の人達が神様に手を合わせ、「どうか筏師が安全にこの木を琵琶湖まで運べます様に」とお願いした神社だ。

それ程、山の仕事はきつく危険だった。その材木を筏に組んで川を下るのは命がけの仕事だっただろう。

 

しかし、今、どうだろう。一人で楽々山仕事だ。

車の通れる道が出来、車で重機が運ばれ、重機でトラックに間伐材を積み込む。そして運ぶ。

80代の平良の「語り部」が働き盛りの頃の山仕事とは、何と言う違いだろうか。

 

文明の利器を使えば使う程,地球は汚染されて行く。それも理解出来る。しかし、目の前でこの便利さを見ていると、どちらがいいのか私は答えが出せない。

 

50年後の利益を夢見て杉を植えた山主さん達。長い時の中で、状況は刻々と変わって行く。人間にとって夢を描くと言うのは,楽しく又大切な事だ。しかし、夢が夢で終わってしまうと言う現実もあるのだと思う。

 


朽木のクリで栗ごはん
朽木のクリで栗ごはん