地蔵の修行

「向かいの地蔵さん」
「向かいの地蔵さん」

県道を隔てて向かいは杉の人工林と落葉樹が続く結構険しい山である。県道から数メートル登った所にずっと気になっていた石がある。引っ越して来た頃は、土葬にされた誰かのお墓かも知れないと思った。そして在る日、村の人にお地蔵さんだと教えてもらった。県道が出来るまではこのお地蔵さんの前が細い山道だったのだ。いつも通る道に、日々の平安を願って置かれたお地蔵さん。平良の集落にも私が知ってるだけでも後一つお地蔵さんがある。それは大きな椿の木の下に、赤いよだれかけの様な物を付けてなんともかわいい。童話に出て来る人間の形をしたお地蔵さんはこの村にはいない。

ある日、向かいのお地蔵さんのもう一つの石が倒れているのに気がついた。立て直そうかとも思ったが止めた。村の人が「倒れたお地蔵さんは起こしたらあかんよ。修行してはるのやから」と言う。何とまあ・・・。軽いショックを受けた。こう教えてくれた人の世代でこう言う話は終わりだろう。冬になれば閉ざされていた少し前まで、山の神様もお地蔵さんも村人にはとても近い土俗信仰の対象だったのだ。山や森は深く、何がおこっても、何が出て来ても不思議ではない。

1人で山の中に入るのが恐いのは、私の遺伝子が何かを覚えているのかも知れない。

雪の杉林
雪の杉林

「若草」の鉢に丁字扶の辛子あえ
「若草」の鉢に丁字扶の辛子あえ